Johor Bahru Photographs

in Malaysia
眠る未来都市 フォレストシティを歩く

海の上に造られた未来都市、フォレストシティ。
かつては世界中から注目を集めた巨大開発プロジェクトで、中国資本を中心に東南アジア最大級のリゾート都市を目指して計画されました。
高層マンションが果てしなく並び、街としての機能も整いながら、いまは静まり返った姿が「ゴーストタウン」として語られる場所です。

そんなフォレストシティを、夜・昼・そしてかつての夢を語るセールスギャラリーまで歩いてみました。
眠る未来都市が持つ静けさと、そこに残る希望のかけらを感じる旅の記録です。

夜のフォレストシティ|静寂に包まれる未来都市

夜のフォレストシティは、まるで眠っている巨大な都市のようでした。
海風が吹き抜ける広い道路には車の気配がほとんどなく、足音だけが静かに響きます。
歩いていると見えてくるのは、高層マンションの林立する居住エリア。けれども窓の明かりはほとんど灯っておらず、未来都市の夢がどこか時間を止めてしまったような、不思議な空気が漂っていました。

Grabタクシーを降りたのは、予定より少し手前。そこから人気のない道を歩きます。
聞いていた「ゴーストタウン」という言葉を思い出すほど、人の気配はなく、車が時おり通るだけ。
街灯の下を一人で歩くと、世界から切り離された場所に迷い込んだような感覚になります。

目の前にそびえるのは、果てしなく続く高層マンション群。
未来都市の象徴のような光景ですが、窓を見ても灯りがほとんどついていません。
この圧倒的な規模と静けさのギャップに、言葉を失うほどの不思議さを感じました。

街中に並ぶのは、ほとんどが中国語の看板。
ここがマレーシアであることを忘れそうになるほど、中国本土の文化を色濃く感じます。
多くの中国人富裕層向けに計画されたこのエリアの片鱗を、看板の文字からも読み取れました。

西側には、対岸の工場地帯が夜通し輝いていました。
日を跨いでいる時間帯にも関わらず、工場の灯りは絶えず動き続け、静かな人工島との対比が際立ちます。
人のいない街と、対岸で動き続ける産業――そのコントラストが、どこか現実離れした光景をつくっていました。

宿泊したマンション|贅沢すぎる空間と静かな夜

未来都市の中にある巨大なマンション群。
その一角では、旅行者向けに部屋を貸し出している住戸があり、思いがけず贅沢な空間を手軽な値段で体験できます。
今回泊まったのは 2+1LDK の広い部屋。宿泊費はわずか 4,500円
あまりに安く、そして広く、まるで需要と供給のバランスが崩れた都市の現実を体感させられるようでした。
静まり返った廊下と、部屋の中の贅沢さ。その落差が、フォレストシティという街の今を物語っていました。

リビングもダイニングもゆったりとしたつくり。
この広さがたった4,500円で手に入ることに、ただ驚かされます。
使われずに余った空間が、旅人を受け入れる懐の深さを静かに語っていました。

ダブルベッドが堂々と置かれた寝室。
一人旅には贅沢すぎる広さで、これまでの狭い安宿やカプセルホテルを思い出すと笑ってしまいます。
別の部屋でもシングルベッドまで用意されていて、大の字で眠れる幸せに浸りました。

キッチンにはIHコンロやポット、食器、調味料までそろっていました。
「このままで暮らせるのでは?」と思うほどの設備の充実ぶりに、思わず苦笑い。
旅人には使いきれないほどの備えが、フォレストシティの夢を感じさせます。

壁にかけられた数枚の絵画が、空間に高級感を添えていました。
普段の一人旅ではまず出会わない雰囲気に、どこか落ち着かず、贅沢に戸惑う自分がいました。
ここが格安で泊まれることの不思議さに、何度も首をかしげてしまいます。

玄関を出ると、一気に現実へ引き戻されます。
いや怖すぎませんか。。。
真っ暗な廊下に足音だけが響き、エレベーターホールまでの道が妙に長く感じました。
人がいない静けさが、かえって恐ろしくなる夜でした。
いや、人が出てきた方が逆に怖いです。

1階の駐車場は満車状態。
人気のない街に反して車だけがぎっしり並んでいる光景に、思わず背筋がぞっとします。
住人がいるのか、どこかへ消えてしまったのか――この街の謎がいっそう深まった瞬間でした。

昼のフォレストシティ|眠る街を太陽が照らすとき

夜の静けさを抜けて迎えた朝。
カーテンを開けると、昨日は闇に沈んでいた未来都市が陽光を浴びて姿を現しました。
それでも人影はほとんどなく、巨大なマンション群と広い道が、静かなまま朝の空気に包まれています。
眠った都市に朝日だけが降り注いでいる――そんな不思議な感覚の中で、再びこの街を歩き出しました。

窓の外に広がるのは、果てしないマンション群。
夜景では見えなかった街の輪郭が朝日で浮かび上がっても、人の姿はほとんどありません。
明るい光の中でこそ、この街が抱える空虚さが際立つようでした。

人工島を埋め尽くすように並ぶ高層マンション。
歩いてみると、その規模の大きさに驚かされます。
しかし人の気配はなく、ただ整然と並ぶ建物が静かにそびえているだけ――不思議な世界に迷い込んだ気分になります。

海沿いにぽつんと現れる謎の階段。
Googleマップでは観光スポットと表示されるけれど、なぜここにあるのか分からない不思議さが漂います。
まるでゲームの世界に出てきそうな場所で、つい登ってみたくなりました。※ド〇クエ6かと思った笑

夜は光と音で満ちていた西側の工場地帯も、朝になると穏やかな表情に。
同じ景色でも昼と夜でこんなに印象が変わるのかと、時間の流れを感じさせてくれます。

東の海の先にはシンガポールのTuas地区。
繁栄の象徴と思っていた国も、国境沿いでは驚くほど静かです。
目と鼻の先に別の国があることを改めて実感し、不思議な感慨が込み上げてきました。

島内を歩いていると、ショッピングモールや学校らしき建物を発見。
自転車さえあれば、この人工島の中で暮らしが完結してしまいそうです。
未完成の未来都市が、生活のための骨組みだけはしっかり整っていることに驚かされました。

Forest City Sales Gallery|夢の都市を描いた場所にて

フォレストシティを歩いていると、街の全貌がつかめなくなるほどの広さに圧倒されます。
そんな時に立ち寄ったのが Forest City Sales Gallery。
投資家や購入希望者たちを迎え入れる販売ギャラリーです。
私が訪れた際はひっそりと静まり返っていましたが、ここには「夢の設計図」がそのまま残されています。

巨大な都市の全体像が、縮小模型として目の前に広がります。
歩いているだけでは見えなかった街の構造が一目でわかり、どれほどのスケールで計画されたのかを思い知らされます。
「LAND TO BE DEVELOPED」と書かれた区画がまだ残されており、夢がいまも途上にあることを静かに語りかけてきました。
――ただ、その広大さと人の少なさのコントラストが、どこか切なくもあります。

そしてなぜか、レトロゲームの筐体がぽつり。
しかも筐体には “FOREST CITY” のロゴがあしらわれ、まるでこの街専用に作られたかのよう。
中身のソフトは昔のものらしいけれど、未来都市の夢の中に突然あらわれるノスタルジーが、奇妙に心をくすぐりました。